[債務整理] 野村証券の説明義務の判例

控訴
後日
資金


主文

1 被告A及び引受参加人野村證券株式会社は,各自,原告に対し,330万円及びこれに対する平成129月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告A及び引受参加人野村證券株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その7を原告の負担とし,その余を被告A及び引受参加人野村證券株式社の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

被告A及び引受参加人野村證券株式会社は,各自,原告に対し,1100万円及びこれに対する平成1年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,脱退被告野村ホールディングス株式会社(旧商号は野村證券株式会社であり,平成13年10月日野村ホールディングス株式会社に商号変更)(以下「旧野村證券株式会社」という。)が募集するアルゼンチン共和国円貨債券(以下「本件アルゼンチン国債」という。)を購入した原告が,上記購入に際し,旧野村證券株式会社の従業員であった被告Aによる,説明義務違反,虚偽説明,断定的判断の提供,目論見書異なる表示があり,平成13年12月アルゼンチン共和国(以下「アルゼンチン国」という。)が対外債務の支払停止をしたことにより購入金額相当額1000万円及び弁護士費用相当額100万円の損害を被ったとして,被告Aに対し民法709条に基づき,旧野村證券株式会社の引受参加人である野村證券株式会社に対民法715条(使用者責任)に基づき,各自1100万円及びこれに対する本件アルゼンチン国債を購入したである平成12年9月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める案である。
1 争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実
(1) 原告は,旧野村證券株式会社が募集する,利率を年4.85パーセント,償還日を平成17年9月26日する,第7回アルゼンチン国円貨債券(本件アルゼンチン国債)につき,平成12年9月13日,1000万円で,購入した。(争いがない)
(2) アルゼンチン国は,平成13年12月,対外債務の支払停止を発表した。(争いがない)
(3) 被告Aは,平成3年6月から旧野村證券株式会社大阪支店資産管理二部に勤務し,顧客である原告の担当をしていた。
被告Aは,原告に対し,本件アルゼンチン国債の案内をし,同国債につき説明し,原告は,(1)項のとおり,同国債を購入した。(乙10)
(4) 原告が(1)項のとおり本件アルゼンチン国債を購入したことに関する旧野村證券株式会社の権利義務は,引受参加人野村證券株式会社へ承継された。(争いがない)
2 争点
被告Aに,原告に対する,本件アルゼンチン国債の購入の勧誘に際し,違法な行為があったか。
違法な行があったとして,原告に生じた損害額。
(原告の主張)
被告Aは,原告に対し,「アルゼンチン共和国について」と題する書面(乙4)を用いて,表示,勧誘を行っが,乙4には,「改革が進む中南米のヨーロッパ」「先進国並みの社会構造」「二大政党制に基づく安定した民主主義」「安定した直接投資,証券投資を保証するドル・ペッグ制の維持」「IMFの優等生として,今後の業構造の発達が期待される。」「経済は回復基調へ」「安定化する金融市場」「国家投資家による高い評価「改善が見込まれる格付け」等の記載があり,これらの記載は,本件アルゼンチン国債の優位性,安全性のみを強調するものである。
被告Aが,このような,本件アルゼンチン国債の優位性,安全性のみを強調する乙4を用いて勧誘を行ったことは,説明義務違反,虚偽説明,断定的判断の提供,目論見書と異なる表示(証券取引法13条5項,17条)になり,違法性がある。
原告は,乙4の記載を信用して,本件アルゼンチン国債を購入したが,アルゼンチン国が,返済拒否等を宣言したことにより,購入額相当額1000万円及び弁護士費用相当額100万円の合計1100万円の損害被った。
したがって,原告は,被告Aに対し民法709条に基づき,引受参加人野村證券株式会社に対し民法715条の使用者責任に基づき,各自,1100万円及び,本件アルゼンチン国債の購入した日である平成12年月13日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告A及び引受参加人の主張)
被告Aは,本件アルゼンチン国債のリスクを十分に説明したし,乙4も原告の判断を誤らせるものではない。
のみならず,被告Aは,原告に対し,目論見書(乙6)を交付し,原告から,低格付債に関する確認書(乙7の2)の差し入れを受けていることからすれば,原告が,本件アルゼンチン国債についての情報を十分に得,リスクを理解した上で,本件アルゼンチン国債を購入したことは明らかであるから,被告A及び旧野村證券株式会社に,不法行為責任が生ずる余地がない。

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第3 争点に対する判断

1 第2の1記載の事実,証拠(甲4,乙3,4,5,6,7の1,7の2,10,原告本人,被告A本人)及び弁論全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告Aは,平成12年8月18日ころ,原告に対し,アルゼンチン国の円貨債券(本件アルゼンチン国債が発行されることを案内した。
(2) 被告Aは,平成12年8月22日,平成12年8月17日付け旧野村證券株式会社営業企画部デット・キャピタル・マーケット部作成の「アルゼンチン共和国について」と題する書面(乙4)を,原告へ,ファックス送信た。
乙4は14頁であり,黒字の箇条書きでアルゼンチン国の現状についての説明が記載され,表,グラフ等が記載されている。
乙4には,黒色の背景色に白抜き文字で,かつ他の黒字より大きい文字で記載することにより,強調して表示された表題が各頁の冒頭に記載されている。
乙4には,次のような表題,説明が記載されている。
ア (乙4の3頁)
「改革が進む中南米のヨーロッパ」(表題),「先進国並みの教育水準。中産階級の存在。」「安定した直接投資,証券投資を保証するドル・ペッグ制の維持。」「IMFの優等生として,今後の産業構造の発達が期待される。」
イ (乙4の4頁)
「先進国並みの社会構造」(表題)
ウ (乙4の5頁)
「二大政党制に基づく安定した民主主義」(表題)
エ (乙4の7頁)
「経済は回復基調へ」(表題)
オ (乙4の8頁)
「沈静化するインフレ・安定化する金融市場」(表題)
カ (乙4の10頁)
「国際投資家による高い評価」(表題)
キ (乙4の12頁)
「投資上の留意点」(表題),「ドル建て債務規模が大きく,2001年から3年間は,毎年140億ドル規模の債務返済と償還が予定されている。米国金融市場の影響を受けやすい。」,「ブラジルへの輸出依存度が高ブラジルの経済と為替の影響を受けやすい。」,「農産物依存の経済から脱却すべく産業政策を進めているが,それまでは商品市況による経済の影響が大きい。」
ク (乙4の13頁)
「改善が見込まれる格付け」(表題),「格付け機関はアルゼンチンの財政赤字削減や民営化進展を評価しいる」,「S&P BB(本年2月にStableに見通し改善)」,「Moody’s B1」,「FitchlBCA BB」
(3) 旧野村證券株式会社は,乙4を社外秘としていており,顧客に示すこと等,社外に出すことを禁止してた。
(4) 被告Aは,平成12年8月28日ころ,原告に対し,墓石広告(乙5)を送付した。
乙5には,本件アルゼンチン国債の利率,価格,申込単位,利払日,償還期限,申込期間及び払込期日の記載とともに「この表示対象となる債券についての情報をお知らせするものです。当該債券及び発行体に関する詳細な情報は目見書に記載されています。当該債券に投資される場合には弊社から目論見書をお渡し致しますので,あらじめご覧の上,購入をご検討ください。」と記載されていた。
(5) 被告Aは,平成12年8月30日ころ,原告に対し,目論見書(乙6)とともに,低格付債に関する確認書用紙(乙7の1)を郵送した。
乙7の1は,右側に,「低格付債に関する確認書」と表題が,下線付で印字され,下線付の表題の下段に署名欄があり,署名欄の下段に「私は,格付がBBB(またはBaa)に満たない債券(「低格付債」)に関して下記の点を充分に確認し,私の判断と責任において取引を行います。」「記 1.債券の格付の定義およびの意味について充分に理解していること
2.「低格付債」はBBB(またはBaa)以上の債券に比べて,(1)デフォルト・リスク(元金や利金に係る債務不履行)が高いこと (2)流動性が低いこと
3.格付は将来変更さる可能性があること」と印字されている。
また,左側に,債券の格付の説明,低格付債とそのリスクの説明等が印字されている。
低格付債とそのリスクの説明としては,「低格付債とそのリスク」「一般に,BBB(Baa)以上の債券は投資適格と呼ばれ,BB(Ba)格以下の債券は投機的格付(低格付債)と呼ばれます。BB(a)格以下の債券は,一般的に利息や元本の支払いが行われない又は遅延するリスク(債務不履行リスクかデフォルト・リスクと呼ばれます)がBBB(Baa)格以上の債券に比べて大きく,また,一般的に,売却を希望しても買い手となる投資家がみつからず売却できないリスク(流動性リスク)や,売却できた場合でも売却単価が購入単価を下回る可能性が大きいことも予想されます。
格付が低い債券は,格付がより高い債券に比べて利回りが相対的に高くなりますが,その理由は,信用度がより低い,ということにほかなりません。」
印字され,上記「低格付債とそのリスク」との表題は下線付,上記「債務不履行リスクとかデフォルト・リスク呼ばれます」「流動性リスク」との印字は,下波線付で,強調されている。
そして,左側下段に,参考として,日本格付投資情報センターによる格付記号の意味が記載され,日本格付投資情報センターの格付記号「B」(BBBの格付の下の格付になる。)は,債務履行の確実性は当面問題ないが,将来環境が変化した場合,十分注意すべき要素があるとの意味である等の記載がある。
しかし,低格付債に関する確認書には,本件アルゼンチン国債についての,格付会社の具体的格付の記載等はない。
乙7の1は,中央部にキリトリ線があり,原告は,右側の署名欄に,自署して,キリトリ線で切り,右側を被告Aへ送り返した(乙7の2)。
(6) 目論見書(乙6)は,44頁にわたるものである。
乙6の3頁には,本件アルゼンチン国債の格付につき,スタンダード・アンド・プアーズ・レーティングズ・サービシズ(以下「スタンダーズ&プアーズ社」という。)が,平成12年8月11日に,BBと格付していること,スタンダーズ&プアーズ社は,BBと格付した債券を,「他の「投機的」格付に比べ,近い将来に債務が不履行なる可能性は低いが,事業状況,財務状況,経済状況が悪化した場合に,当該債務を期日通りに履行する
能力が不十分となる可能性をもたらす,大きな不確定要素やリスクにさらされている。」と定義している旨,件アルゼンチン国債につき,ムーディーズ・インベスターズ・サービス・インク(以下「ムーディーズ社」という。)が,平成12年8月10日に,B1と格付していること,ムーディーズ社は,「B」と格付した債券を,「好まい投資対象としての適正さに欠けると判断された債券に対する格付。長期的な観点から見ると,元利払いよび契約条項の遵守の確実性は低い。」と定義し,「1」という付加記号を,当該債券がその格付のカテゴリーの中で上位に位置していると定義している旨の記載がある。
また,乙6の20頁から44頁にわたり,アルゼンチン国の政治及び外交,経済,貿易及び国際収支,通貨及び金融制度,財政等が,詳述されており,その記載に,不相当なものは見当たらない。
(7) 原告は,平成12年9月13日,1000万円で,旧野村證券株式会社が募集する本件アルゼンチン国債を購入した。
(8) 原告は,昭和20年9月22日生まれである。原告は,旧イトマンの関連会社の社長をしていた。
原告は株式会社アジア都市経済研究所を経営しており,政治情勢及び経済情勢を研究している。
原告は,特殊な政治情報の分野の執筆活動をしている。
原告は,昭和61年3月17日から,旧野村證券株式会社大阪支店と取引があり,株式,投資信託等の取引をしており,平成7年4月26日には,ギリシア中央銀行債,平成7年8月30日には,オーストラリア国債を購入している。
原告は,平成12年8月当時,格付の意味を理解していた(原告本人34項)。
2(1) 原告は,陳述書(甲4)及び原告本人尋問において,被告Aが,乙4につき,後日,お渡しすることになるかもしれない目論見書からの引用であると言った旨,また,被告Aが,アルゼンチン国の健全性については,資料をお送りしたとおり,特に問題はありませんと言った旨,さらに,被告Aが,大丈夫ですよ,是非,決断下さい,アメリカやヨーロッパの国債との利回りの開きもわずか1パーセント,あるいは,それ以下ですから,その意味でも安全だと説明した旨,そして,原告が,乙7の1,2を見て,被告Aに連絡すると,被告Aがいつものように形式的な確認書をいただくだけですからと答えた旨供述する。
しかしながら,被告Aは,陳述書(乙10)及び被告A本人尋問において,上記の言動,説明をした事実はないと供述していること,被告A上記の言動,説明があったことを裏付ける的確な証拠もないことからすれば,原告が供述するところの,被告Aが上記の言動,説明をした事実は,にわかに認定できない。
(2) 被告Aは,陳述書(乙10)及び被告A本人尋問において,平成12年8月18日ころ,原告に対し,戦争債務不履行のカントリーリスクの存在はあることを言った旨,平成12年8月30日から同年9月2日ころ,BB以下の低格付でのカントリーリスク,すなわち,債券はBBBまでが投資適格債になり,本件アルゼンチン国債は,スタンダード&プアーズ社,ムーディーズ社が,BBやBを付けており,低格付債で投資不適格債いわれ,エマージングの国ですのでカントリーリスクがあることを,電話で,原告に伝えた旨供述する。
しかながら,原告は,陳述書(甲4)及び原告本人尋問において,上記の被告Aの言動はなかったと供述していこと,被告Aの上記の言動があったことを裏付ける的確な証拠もないことからすれば,被告Aが供述するとろの,被告Aの上記の言動をした事実は,にわかに認定できない。
3(1) 本件アルゼンチン国債の目論見書(乙6)は,1(6)項のとおり,格付会社であるスタンダード&プアー社及びムーディーズ社による,本件アルゼンチン国債の格付を明記しており,スタンダード&プアーズ社,ムーディーズ社による,本件アルゼンチン国債の格付である「BB」「B1」という記号の意味も明記しているこから,本件アルゼンチン国債が,投機的要素を持ち,信用リスクがあることを明示しているといえる。
また,6は,1(6)項のとおり,アルゼンチン国の政治及び外交,経済,貿易及び国際収支,通貨及び金融制度,財政等が25頁にわたり詳述されており,その記載は,アルゼンチン国の平成12年8月当時の状況を適切に述べており,その記載に,不相当なものは見当たらない。
(2) しかしながら,乙4の記載には,次のとおり,不相当なところがある。
ア 1(2)ア項のとおり「安定した直接投資,証券投資を保証する」との表現が使用されている(乙4の3頁)。
の表現は,外国債の購入を勧誘する文書の表現としては,顧客の判断を誤らせる可能性があり,相当性を欠くものである。
なお,ドル・ペッグ制は,自国の通貨と、米ドルとの為替レートを、一定に保つ制度であり(日本をはじめとする主要国は,自国の通貨と,米ドルなど特定の通貨との為替レートを、一定に保つペッグ制ではなく,変動場制を採用している。),安定した証券投資を保証する制度ではない。
イ 表題に「改革が進む中南米のヨーロッパ」「先進国並みの社会構造」「経済は回復基調へ」「沈静化するンフレ・安定化する金融市場」「国際投資家による高い評価」「改善が見込まれる格付け」との記載がある。
ずれも抽象的な表現で,アルゼンチン国の政治,経済,金融等が健全であることを強調する表現といえるそもそも,外国債の購入を勧誘するにつき,その国の政治,経済,金融等の欠点等を捨象した,抽象的か肯定的な評価をする表現を用いることは,顧客の判断を誤らせる可能性があるものであり,相当性を欠くものである。
そして,そのような抽象的かつ肯定的な評価をする表現を,多数使用すること,あるいは,そのような抽象的かつ肯定的な表現が,他の文字に比し,目立つ形で使用される場合は,より一層,顧客の判断誤らせる可能性があり,相当性を欠くものといえる。
乙4の,上記各表現は,アルゼンチン国の政治,経済,金融等の欠点等を捨象した,抽象的かつ肯定的な評価を示す表現であり,しかも,黒色の背景色に白抜き文字で,かつ他の黒字より大きい文字で記載するとにより,強調して表示されている上,各頁の冒頭の表題として目立つ形で記載されており,さらに,表現は異なるが,いずれもアルゼンチン国の政治,経済,金融等が健全であることを強調する抽象的な表現が複使用されていることからして,顧客の判断を誤らせる可能性があるもので相当性を欠くものである。
(3) 被告Aは,平成12年8月18日ころ,原告に対し,本件アルゼンチン国債が発行されることを伝えて,乙4を,原告へファックス送信しており,乙4の作成日付が,平成12年8月17日であることからしても,4が,アルゼンチン国債の募集を意識して作成された文書であり,被告Aが,乙4を,原告へ,ファックス送したのは,原告に,本件アルゼンチン国債の購入を勧誘するためであったと認められる。
目論見書(乙6)が,44頁で,字も細かいものであるのに比し,乙4は,14頁で,字も大きく,しかも説明文は箇条書きであることから,乙4が,乙6に比し,一般人をして読みやすいものであることが認められる。
また,被告Aが,乙6(目論見書)の他に,乙4を,原告へ送付したのは,乙4が,読みやすいものであったこと理由になっていることが推認される。
4(1) 社外秘とされており,顧客に示すこと等社外に出すことが禁止されていた文書であり,3(2),(3)項のおり,送付すれば,顧客の判断を誤らせる可能性がある表現が記載されており,しかも目論見書に比し,読みやすい文書である乙4を,被告Aが,顧客である原告にファックス送信したことは,証券会社の営業担当としての勧誘行為として許される限度を超えた違法なものであるといわざるを得ない。
(2) 原告は,陳述書(甲4)及び原告本人尋問において,3(2)ア,イ項で述べた表現を,本件アルゼンチン債購入の判断材料にした旨供述しており,この供述に反する証拠はなく,被告Aが,乙4を,原告へファックス送信した行為と,原告が,本件アルゼンチン国債を購入したこととは,因果関係が認められる。
(3) したがって,被告Aは,原告に対し,民法709条による,不法行為に基づく損害賠償義務により,原告生じた損害を賠償すべきであると認められる。
そして,被告Aは旧野村證券株式会社の被用者であり,被告Aの(1)の行為は,事業の執行にあたるものといえるから,旧野村證券株式会社から債務の承継を受けた引受参加人も,原告に対し,民法715条による,使用者責任に基づく損害賠償義務により,原告に生じた損を賠償すべきであると認められる。
5 過失相殺について
(1) 1項で認定した事実,証拠(乙4,5,6,7の1,7の2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認めれる。
ア 第3の1(8)項の事実からすれば,原告は,証券取引につき,一般的な顧客以上の,相当な知識と経験有しており,債券の格付の意味も当然理解していたことが認められる。
イ(ア) 乙4の3頁には,「安定した直接投資,証券投資を保証する」との表現が使用されているが,この表の後に「ドル・ペッグ制」という言葉が記載されており,よく読めば,この表現は,旧野村證券株式会社等が安定した直接投資,証券投資を保証しているとの趣旨ではなく,アルゼンチン国が採用しているドル・ペッグ制が,安定した直接投資,証券投資を保証するとの趣旨で使用されていることが分かるものであり,原告が,ドル・ペッグ制につき検討,考慮しさえすれば,ドル・ペッグ制が,安定した直接投資,証券取引を保証る制度でないことは認識し得る。
(イ) 乙4には,表題として「改革が進む中南米のヨーロッパ」「先進国並みの社会構造」「経済は回復基調へ」「沈静化するインフレ・安定化する金融市場」「国際投資家による高い評価」「改善が見込まれる格付け等の記載があり,いずれも,顧客の判断を誤らせる可能性がある表現ではあるものの,いずれも,抽象的な,評価的な表現であり,乙4に,明確に客観的に誤った事実が摘示されているとは認められない。
一方,乙4は,表題の下段に,表,グラフ等で,その表題に関する具体的数値が記載されており,下段の表,グラフ等の数値自体が誤っていた事実は認められず,原告は,表,グラフ等の数値を検討すれば,表に関する,アルゼンチン国の客観的な状況を認識し得たといえる。
例えば,乙4の4頁には,「先進国並み社会構造」との表題が記載されているが,その下段の表には,アルゼンチン国の文盲率が3パーセントであること,一人あたりのGDPが8030USドルであること等が記載されており,この数字を検討すれば,アルゼンチン国の文盲率,一人あたりのGDP等が,いわゆる欧米の先進国よりは低い水準であることが,容易に分かり,表題の「並み」とは,どの程度のことを指しているかが,認識し得る。また,乙4の7頁には,「経済回復基調へ」との表題は記載されているが,その下段のグラフには,アルゼンチン国の実質GDP成長率,鉱工業生産指数が記載されており,これらの数値を検討すれば,どの程度の数値をもって,「回復基調へ評価しているのかが,認識し得る。
乙4の8頁には,「沈静化するインフレ・安定化する金融市場」との表題記載されているが,その下段のグラフには,アルゼンチン国の物価上昇率の推移,市場金利が記載されており,これらの数値を検討すれば,どの程度の数値をもって,「沈静化」「安定化」と評価しているのかが認し得る。
また,乙4の13頁には,「改善が見込まれる格付け」との表題は記載されているが,その下段には格付記号の定義の記載はないものの,スタンダード&プアーズ社の格付がBB,ムーディーズ社の格付が1であることが明示されており,格付会社による具体的格付を認識し得る。
(ウ) 目論見書(乙6)には,ムーディーズ社及びスタンダード&プアーズ社による本件アルゼンチン国債の格付が明記されており,アルゼンチン国債が,投機的要素を持ち,信用リスクがあることが明示されていた。
また,目論見書(乙6)には,アルゼンチン国の政治及び外交,経済,貿易及び国際収支,通貨及び金融制度,財政等が25頁にわたり詳述されており,その記載は,アルゼンチン国の平成12年8月当時の状況を切に述べており,原告が,目論見書(乙6)を見れば,乙4の記載につき,適切に判断し得た。
(エ) 1(4)項のとおり,墓石広告(乙5)には,目論見書を見るようにとの記載がされていた。
(オ) 原告は,1(5)項のとおり,低格付債に関する確認書の用紙(乙7の1,2)に,署名して,被告Aへ返送ている。
なお,乙7の1,2につき,被告Aが,原告に対し,いつものように形式的な確認書をいただくだけでからと言った事実が認めるに足りないことは,2(1)項のとおりである。
(2) (1)項で認定した事実によると,原告が,被告Aから送付された乙4,5,6,7の1,7の2の記載内容に意を払っておれば,3(2)項の乙4の記載についても,適切に評価し得たというべきであり,原告にも,その損害の発生については,相当な落度があるというべきである。
被告Aの行為の違法性の程度,原告の落度等を総合して考慮すると,過失相殺として,原告の本件アルンチン国債の取引による損害額の7割を減ずるのが相当である。
6 第2の1(2)項のとおり,アルゼンチン国は,平成13年12月,対外債務の支払停止を発表したが,以後アルゼンチン国が,本件アルゼンチン国債の全部又は一部の償還に応じることを確約等した事実をうかが証拠はない。
したがって,本件アルゼンチン国債の経済的価値はないものといわざるを得ず,原告には,購入額である000万円相当額につき,損害が生じたものとすべきである。
上記1000万円から,過失相殺として,その7割を減じると,300万円となる。
7 弁護士費用相当額の損害について(原告の請求額100万円)
被告Aの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害額は,30万円とするのが相当である。
8 したがって,原告は,被告Aに対し民法709条に基づき,引受参加人野村證券株式会社に対し民法71条に基づき,6及び7項記載の合計330万円の支払を各自請求することができるので,その範囲で,原告請求を認容し,その余の請求は理由がないので,これを棄却することとする。
なお,仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととする。

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本人訴訟の場合、貸金業者側の反撃に遭い、後記の民法704条に基づく利息を付さない和解に追い込まれるケースが多いといわれ、また、後掲のように、取引履歴の不開示があったり、充当関係で複雑な事案であったりすると、本人訴訟で法律上正しい金額の返還を受けることは極めて困難なのが現実。

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